「年金は65歳からもらう」のが一般的ですが、「繰り下げ受給」を選べば、一生涯もらえる年金額を大幅に増やすことができます。
受給開始を遅らせるだけで、最大で42%(70歳開始)、84%(75歳開始)も増額される可能性がある、非常に魅力的な制度です。
しかし、年金をもらえない期間があるため、「何歳まで生きれば得になるの?」と不安に感じる方も多いでしょう。
この記事では、年金繰り下げ受給の仕組みと、「65歳受給」と比較して受給総額が上回る(損益分岐点)年齢について、具体的に解説します。
1. 繰り下げ受給の仕組みと増額率
老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は、66歳から最大75歳までの間で、1カ月単位で受給開始を遅らせることができます。
遅らせた期間に応じて、以下の増額率が適用されます。
| 繰り下げ月数 | 増額率(1カ月あたり) | 65歳からの期間 | 最大増額率 |
|---|---|---|---|
| 1カ月 | 0.7% | – | – |
| 60カ月 | 42.0% | 70歳開始 | 42.0% |
| 120カ月 | 84.0% | 75歳開始 | 84.0% |
この増額された年金額は、一生涯変わりません。
2. 繰り下げ受給の「損益分岐点」を徹底解説
「繰り下げ受給」の最大のポイントは、何歳まで生きれば、65歳からもらい続けた場合の総額を上回るか(損益分岐点)を知ることです。
比較:70歳から受給開始(42%増額)の場合
5年間(60カ月)繰り下げることで、年金額は42%増額されます。
| 項目 | 65歳受給(基準) | 70歳受給(42%増額) | 差額が解消される年齢 |
|---|---|---|---|
| 年金を受け取らない期間の総額 | – | 65~69歳の5年分の年金は受け取らない | – |
| 増額された年金を受け取る期間 | – | 70歳から | – |
| 損益分岐点 | – | 約82歳 |
【解説】
65歳から70歳までの5年間受け取らなかった分を、70歳以降の42%増の年金額で回収し、総額が上回るのが約82歳です。
つまり、82歳を超えて長生きする見込みがあれば、70歳まで繰り下げる方が生涯の受給総額は多くなります。
比較:75歳から受給開始(84%増額)の場合
10年間(120カ月)繰り下げることで、年金額は84%増額されます。
| 項目 | 65歳受給(基準) | 75歳受給(84%増額) | 差額が解消される年齢 |
|---|---|---|---|
| 年金を受け取らない期間の総額 | – | 65~74歳の10年分の年金は受け取らない | – |
| 増額された年金を受け取る期間 | – | 75歳から | – |
| 損益分岐点 | – | 約86~87歳 |
【解説】
10年間受け取らなかった分を、75歳以降の84%増の年金額で回収し、総額が上回るのが約86~87歳です。
現在の日本の平均寿命は男性約81歳、女性約87歳(2023年時点)です。75歳繰り下げの場合、女性の平均寿命付近でようやくプラスになる計算です。
3. 繰り下げ受給を選択する際の注意点
繰り下げ受給は年金額を増やせる強力な手段ですが、以下の注意点があります。
1. 加給年金・振替加算は増額されない
配偶者がいる場合にもらえる加給年金や振替加算は、繰り下げても増額の対象にはなりません。特に加給年金は、本人が65歳になった時点で配偶者が受給できる権利が発生するため、繰り下げによって最大5年間、その分の受給が遅れることになります。
2. 65歳以降の収入源が必要
年金を受け取らない期間(最大10年間)の生活費は、貯蓄や退職金、または60歳以降の就労収入で賄う必要があります。繰り下げ期間の生活費が尽きてしまっては本末転倒です。
3. 損益分岐点前に亡くなった場合
損益分岐点(82歳や87歳)を迎える前に亡くなった場合、65歳から受給し続けた場合に比べて総受給額が少なくなる可能性があります。「長生きリスク(お金が尽きるリスク)」を減らせる一方で、「短命リスク(総額で損するリスク)」を負うことになります。
繰り下げ受給は「長寿への保険」
繰り下げ受給は、「80歳以降まで長生きする」こと、そして「65歳以降も十分な貯蓄や収入がある」ことが前提となります。
- 70歳繰り下げ:約82歳が分岐点。老後の生活費をより盤石にしたい人におすすめ。
- 75歳繰り下げ:約86~87歳が分岐点。超長寿リスクに備えたい人向け。
ご自身の健康状態や資産状況、配偶者の有無などを総合的に判断し、「長生きしたときの保険」として繰り下げ受給を検討してみてください。

